目次

Ⅲ.電極の設計方法

「Ⅰ.放電加工とは」へ

「Ⅱ.加工条件の考え方」へ

4.電極本数

最も一般的な加工である、ワーク材質が鉄系で加工箇所が1箇所の場合では、加工の機会の約90%において「荒・仕上加工用として電極2本を作成」であり、面倒な判断は不要です。しかしながら、ワーク材質が異なったり、加工箇所が多くなると電極本数を多くする必要があります。電極本数を決める場合の考え方について以下に説明します。

1)荒電極の本数

荒電極の本数は、主に電極消耗量で判断します。ワーク材質により電極消耗率が異なります。
ワーク材質がアルミ系の場合には電極消耗を体積消耗率(通常は重量消耗で表されている場合が多い)に置き換えると鉄系の1/3程度であり、電極本数を削減することができます。また銅合金系では重量消耗率が3~10%、また超硬合金では重量消耗率が15~20%であり電極本数を多く必要とします。

 

下記は「電極本数の指針値」を求める計算式です。式中の係数など特別に根拠のあるものではなく、経験値を基に決められたものですが、短時間で電極本数を判断する場合の簡易計算式として使用してください。

 

荒電極本数の指針値=0.02[係数]×加工深さ[mm]×電極消耗率[%]×加工個数

注)加工深さ[mm]

実際に加工する深さ。複雑な加工形状や、前加工後の加工では最も深い加工深さを使用してください。

注)電極消耗率[%]

電極消耗率は加工機に付属されている取扱説明書などの加工データから読取ります。ただし、加工機に添付されている加工データは加工深さが浅い場合のデータです。加工深さが深くなると加工安定状態が悪くなり、一般に電極消耗は1.5~10倍程度に多くなります。正確な電極消耗率を予測することは難しいため、下記のデータを標準値として使用してください。

<代表的なワーク-電極材質の組合わせによる電極消耗のデータ>

ワーク材質:鉄系 - 電極材質:銅またはグラファイト  ⇒電極消耗率[%]=1

ワーク材質:アルミ系 - 電極材質:銅またはグラファイト⇒電極消耗率[%]=0.3

ワーク材質:銅合金 - 電極材質:銅またはグラファイト ⇒電極消耗率[%]=3

ワーク材質:超硬合金 - 電極材質:銅タングステン   ⇒電極消耗率[%]=20

<荒電極の本数の見込み例>
加工例1)
  • ワーク材質:鉄系
  • 電極材質:銅
  • 加工深さ:20mm
  • 加工箇所:1

 

 荒電極本数の指針値=0.02×20×1×1
           =0.4   ⇒荒電極の本数 1本

加工例2)
  • ワーク材質:鉄系
  • 電極材質:銅
  • 加工深さ:20mm
  • 加工箇所:4

 

 荒電極本数の指針値=0.02×20×1×4
           =1.6   ⇒荒電極の本数 2本

加工例3)
  • ワーク材質:超硬合金
  • 電極材質:銅タングステン
  • 加工深さ:5mm
  • 加工箇所:2

 

 荒電極本数の指針値=0.02×5×20×2
           =4    ⇒荒電極の本数 4本

2)仕上電極の本数

仕上電極の本数は、要求される加工精度や仕上面あらさと電極消耗率に関係しますが、判断方法が面倒なため、下記のように加工内容別に判断します。

 

仕上電極本数の指針値=加工個数÷加工可能な加工箇数

加工内容 加工可能な加工箇数
高精度エッジ部 0.5
高品質キャビティ 0.7
一般キャビティ
リブ溝 2~3
一般加工部 3~8
注)加工可能な加工箇数
    電極1本で加工可能な個数           
注)加工内容
 ・高精度エッジ部

コネクターピン用金型のコアピンなど、加工部コーナにシャープなエッジを必要とする加工

 ・高品質キャビティ

形状品質の維持のため磨き作業を極力避けたい場合などの、キャビティ部(製品部)の加工

<仕上電極の本数の見込み例>
加工例1)
  • 加工内容:高精度エッジ部
  • 加工個数:1

 

 仕上電極本数の指針値=1÷0.5
            =2   ⇒仕上電極の本数 2本

加工例2)
  • 加工内容:一般キャビティ
  • 加工個数:4

 

 仕上電極本数の指針値=4÷2
            =2   ⇒仕上電極の本数 2本

3)荒・仕上共用電極の本数

加工個数が多い場合で、しかも加工内容による電極減寸量の設計において荒電極と仕上電極の減寸量を同じにできる場合には、荒電極と仕上電極の区別をなくし、使用済みの仕上電極を次の荒加工用電極と使用し、電極本数を削減することができます。

荒・仕上共用電極の本数を決めるためには、前記の「荒電極の本数」と「仕上電極の本数」の手順でそれぞれ見込み本数を算出した後に、下記の内容で電極本数を判断します。

 

(1)仕上電極の見込み本数が荒電極より多い場合

  荒・仕上共用電極の本数の指針値=仕上電極の見込み本数+1

 

(2)荒電極の見込み本数が仕上荒電極より多い場合

  荒・仕上共用電極の本数の指針値=荒電極の見込み本数+1

<荒・仕上共用電極の本数の見込み例>
加工例1)
  • ワーク材質:鉄系
  • 電極材質:銅
  • 加工深さ:10mm
  • 加工箇所:20

 

 荒電極本数の指針値=0.02×10×1×20
           =4    ⇒荒電極の見込み本数 4本

 

  • 加工内容:一般キャビティ
  • 加工個数:20

 

 仕上電極本数の指針値=20÷2
            =10   ⇒仕上電極の見込み本数 10本
荒・仕上共用電極で、仕上電極の見込み本数が荒電極よりも多いため、使用する式は、
荒・仕上共用電極の本数の指針値=仕上電極の見込み本数+1
荒・仕上共用電極の本数の指針値=10+1
               =11   ⇒荒・仕上共用電極の本数 11本

加工例2)
  • ワーク材質:鉄系
  • 電極材質:銅
  • 加工深さ:30mm
  • 加工箇所:20

 

 荒電極本数の指針値=0.02×30×1×20
           =1    ⇒荒電極の見込み本数 12本

 

  • 加工内容:一般キャビティ
  • 加工個数:20

 

 仕上電極本数の指針値=20÷2
            =10   ⇒仕上電極の見込み本数 10本
荒・仕上共用電極で、荒電極の見込み本数が仕上電極よりも多いため、使用する式は、
荒・仕上共用電極の本数の指針値=荒電極の見込み本数+1
荒・仕上共用電極の本数の指針値=12+1
               =13    ⇒荒・仕上電極共用の本数 13本