目次

Ⅲ.電極の設計方法

「Ⅰ.放電加工とは」へ

「Ⅱ.加工条件の考え方」へ

6.減寸量

火花を発生させて加工する放電加工機では、加工された形状は火花の強さに応じて電極よりも大きくなります。このため、予め電極の寸法は目的の形状に対して縮小しておかなければなりません。電極を縮小する量を「電極減寸量」と呼びます。ここでは、「電極減寸量」の決め方について説明します。

1)「電極減寸量」の大きさにより考慮すべき点

(1)大きな「電極減寸量」は荒加工速度が速い。

下記のデータは「電極減寸量」と見込加工時間の関係を示すものです(電極材質は電気銅、加工深さ10mm、電極の大きさは□10、50,100mm)。「電極減寸量」により見込加工時間が大きく変化することが判ります。

  電極の大きさ(mm)
電極減寸量 □10 □50 □100
0.4 1時間 3時間 20時間
0.3 1時間 4時間 25時間
0.25 1時間 7時間 40時間
0.2 1時間 10時間 60時間
0.15 2時間 20時間 120時間
0.1 3時間 60時間
0.07 15時間 120時間
表1) 加工深さ10mm(前加工なし)、銅電極を使用した場合の電極減寸量による見込加工時間

注意点として、電極大きさが□10mmでは「電極減寸量」0.4、0.3、0.25mmでは見込加工時間に差がないことです。放電加工では小さな加工面積に対して強い加工条件を使用しても加工速度アップの効果が得られません。

(2)大きな「電極減寸量」は形状誤差が大きくなりやすい。

大きな「電極減寸量」では、目的の形状寸法にするために大きな半径の揺動運動を使用することになり、必然的に形状誤差を発生する危険性が高くなります。このため、特に仕上電極では不必要に「電極減寸量」を大きくすることは避けなければなりません。

(3)大きな「電極減寸量」はコーナ部の電極消耗が大きくなりやすい。

大きな「電極減寸量」では、放電加工時にコーナ部の消耗が大きくなり、シャープなコーナ形状を必要とする加工では避けなければなりません。

2)「電極減寸量」の決め方

「電極減寸量」は、加工量や、要求形状精度などから決める必要がありますが、電極を製作する効率を考えると、多くの種類の「電極減寸量」に対応することは好ましくありません。電極を加工する工具の管理、電極加工用の切削プログラムの作成、さらには電極設計者に要求される判断方法などが煩雑になる問題が発生します。このため、「電極減寸量」の種類は多くても、荒電極で3種類、中仕上電極で2種類、仕上電極で3種類程度にとどめる必要があります。

金型の種類   1
一般家電用金型
自動車用金型
一般ダイキャスト金型
荒電極 0.8 0.5 0.3
中仕上電極 0.5    
仕上電極 0.3 0.25 0.2
小形プラスチック金型
小形ダイキャスト金型
荒電極 0.3 0.2  
中仕上電極 0.15 0.1  
仕上電極 0.15 0.1 0.07
精密プラスチック金型 荒電極 0.2 0.15  
中仕上電極 0.07    
仕上電極 0.1 0.07 0.05
表2) 金型の種類による標準的な「電極減寸量」の例