5.電極の減寸方法
放電加工は、電極の形状をワークに対して転写する加工法ですが、電極の形状は目的の加工形状に対して小さくしなければなりません。この小さくする量を「電極減寸量」と呼びます。「電極減寸量」は0.03~2.0mm程度であり、使用する放電加工条件などにより異なりますが、ここでは、電極の形状を減寸する方法について説明します。
電極の減寸方法は、主に“「平面」方向の減寸”と“「3D」方向の減寸”に区別されます。
“「3D」方向の減寸”は、すべての面に対して法線方向に減寸する方法です。3次元CADで設計される電極では、最も一般的な減寸方法です。放電加工時は「球」揺動を使用します。
“「平面」方向の減寸”は、2次元方向に減寸する方法です。2次元形状の電極に使用される減寸方法であり、高精度金型用の電極で一般的に使用される減寸方法です。放電加工時は平面揺動である「丸」、「角」揺動を使用します。特に、シャープなコーナ形状を必要とする場合には、放電加工時に「角」揺動を使用します。「角」揺動は主に矩形形状の電極で使用しますが、電極が矩形以外の形状部を伴う場合には、放電加工時の形状誤差を防ぐために特殊な設計が必要になります。
“「平面」方向の減寸”と“「3D」方向の減寸”は、それぞれ利点と欠点があり、加工目的により使い分ける必要があります。
1)「3D」方向の減寸
<減寸方法>
- すべての面に対して法線方向に減寸する
<利点>
- 3次元CADにより、減寸した形状を自動的に設計できる。
- 電極加工時のボールエンドミルの径を変えることにより、簡単に減寸できる。
<欠点>
- 形状のコーナ部に減寸量に応じたR部が発生する。
- 放電加工時に「球」揺動以外で加工すると食込みが発生する。
- 放電加工時に「球」揺動を使用するため加工効率が悪い。
<適用される金型>
一般的な金型で使用します。
加工精度の厳しくない金型では、放電加工時の加工効率が悪い「球」揺動を使用せず、食込みの発生を無視し加工効率の高い平面揺動を使用する場合があります。
① “「3D」方向の減寸”の例と「球」揺動の動作
電極底面のコーナ部には減寸量に相当するR
状の取残しが発生するため、仕上電極では電
極減寸量を大きくできない。画像にマウスONで
動画が見られます
電極底面のR部は正しい形状に転写される。
画像にマウスONで動画が見られます
② 「球」揺動を使用せず、平面揺動を使用した場合の動作と食込み部
平面揺動により、電極底面のコーナ部には食込み部が発生し、正しい加工形状である赤線部を越えて
加工される。画像にマウスONで動画が見られます
2)「平面」方向の減寸
<減寸方法>
- 2次元平面上の形状に対して内側にオフセットした形状に減寸する。
- 底面コーナ部のC面部やR部は同一寸法とし減寸しない。
- 矩形形状以外で角揺動を使用する場合は特殊な減寸方法が必要。
<利点>
- 放電加工時に底面のシャープなコーナ部が転写できる。
<欠点>
- 3次元形状の電極の設計が難しい。
<適用される金型>
精密金型で使用。一般に精密金型はコーナ部のシャープエッジが必要な場合が多い。
① 「丸」揺動の動作
「丸」揺動により、コーナ部には、減寸量に相当
するR状の取残しが発生するため、仕上電極
では電極減寸量を大きくできない。画像にマウス
ONで動画が見られます
② 矩形形状以外の電極で「角」揺動の動作と食込み部
「角」揺動により、電極のコーナ部には食込み部
が発生し、 正しい加工形状である赤線部を越え
て加工される。
画像にマウスONで動画が見られます
③ 矩形形状の電極と「角」揺動の動作
「角」揺動により、コーナ部はシャープに
加工される。画像にマウスONで動画が見られます
④ 矩形形状以外の電極で「角」揺動を使用する場合の減寸方法
高精度金型の放電加工において、矩形の電極ではコーナをシャープに加工するため、「角」揺動を使用します。しかしながら電極が完全な矩形ではない場合に「角」揺動を使用しますと、一部に加工による食込みが発生します。矩形でない形状を「角」揺動で放電加工するための電極の減寸方法は、「丸」揺動で放電加工する場合と異なり、“「角」揺動用の減寸”としてX/Y軸方向に減寸しなければなりません。
下図のように、コーナ部は他の部分に比べて大きく減寸する必要があり、形状が複雑になると電極の設計は難しくなります。(下図の例では、45度の斜面部の減寸量は、他の部分に比べてXY方向に合成された減寸量となり、ルート2倍となる。)